教皇ベネディクト16世死去に際して
2022年12月31日午前9:34(ローマ時間)、名誉教皇ベネディクトゥス16世(Papa Emeritus Benedictus XVI)が死去した。評価の分かれる人物であったことは確かだが、20世紀、21世紀のカトリック教会そしてキリスト教にとって非常に重要な人物であるので、彼の死の前後に出たものを(ほとんど自分用にではあるが)できるだけ記録に留めようと試みる。また、他に記録すべきものがあれば更新していく予定である。
#BREAKING | Our beloved #BenedictXVI has departed to meet the Father. The Vatican confirmed his death a few minutes ago. We join in prayer for the eternal repose of the Pope Emeritus. May the light that has no end shine for him. pic.twitter.com/bHNZajsnJi
— EWTN Vatican (@EWTNVatican) December 31, 2022
彼の略歴はここで見ることができる。
https://www.cbcj.catholic.jp/catholic/pope/benedictxvi/biography/
ラテン語の発音に従えば「ベネディクトゥス」と表記すべきだが、日本では通例として「ベネディクト」が使われているので、表題も文中も「ベネディクト」とする。また教皇就任前には「ヨーゼフ・ラッツィンガー」として知られていたことも確認しておかなければならない。
日本の司教協議会会長の菊地功 S.V.D.(東京大司教)による日本の信徒へのメッセージ。
https://www.cbcj.catholic.jp/2022/12/31/26205/
教皇ベネディクトの遺言。
これ自体は2006年に書かれたものだが、教皇の死後に公表されることになっている。原文はドイツ語でイタリア語の訳文が付されている。Catholic News Agencyから英訳もでている。
https://press.vatican.va/content/salastampa/it/bollettino/pubblico/2022/12/31/0966/02044.html
https://www.catholicnewsagency.com/news/253202/full-text-of-benedict-xvis-spiritual-testament
アメリカのイエズス会系のメディアがまとめた教皇としてのあゆみ。単なる賞賛という形式ではなく、彼の神学的立場を明確に指摘している。
Gibson, David. “Pope Benedict XVI, Defender of Orthodoxy Defined by Historic Resignation, Dies at 95.” America Magazine, December 31, 2022. https://www.americamagazine.org/faith/2022/12/31/pope-benedict-xvi-death-obituary-225610
女性を聖職者に叙階するように求めている団体、Women's Ordination Worldwide(WOW)が発表した声明。この団体は複数の国に参加者がいるようである。かつてリベラルであったラッツィンガーが教理省で働くようになってから保守的になったことを指摘しているのがわかる。
WOW. “Women’s Ordination Worldwide Responds to Death of Pope Emeritus Benedict XVI.” Women’s Ordination Worldwide, December 31, 2022. https://womensordinationcampaign.org/press-releases/2022/12/31/womens-ordination-worldwide-responds-to-death-of-emeritus-pope-benedict-xvi.
葬儀ミサ
式次第はこちら。第3奉献文が使われているのが特徴的かもしれない。
葬儀ミサの動画。 “Santo Subito” との横断幕があり、そう叫ぶ会衆の声も聞かれる。
日本語で読める書籍
〜ベネディクト自身によるもの〜
・教皇ベネディクト十六世『回勅 神は愛』カトリック中央協議会、2006年。
この本は教皇として最初の回勅。ギリシア語でさまざまに表現される「愛」について、そのキリスト教的な総合を語っている。東大の山本芳久先生(中世哲学・神学)がラジオ番組か何かで紹介されたため、重版に至ったらしい。ベネディクトの死後まもなくしてAmazonの在庫がなくなってしまった。
ラテン語、イタリア語、フランス語、英語、ドイツ語などならここから読める。
・『使徒:教会の起源』
・『教父』
・『中世の神学者』
・『女性の神秘家・教会博士』
これら4冊はキリスト教の歴史だけでなく、彼の思想的立場もよく知ることができる。これら4冊については以前の記事で紹介しているのでこちらを参照されたい。
〜ベネディクトについて書かれたもの〜
・今野元『教皇ベネディクトゥス一六世:「キリスト教的ヨーロッパ」の逆襲』東京大学出版会、2015年。
古本屋で売っているのを2020年に神保町で買った。2023年1月1日現在でAmazonに新品の在庫があるくらいなので、ギリギリ流通しているのではないだろうか。高価だが、日本語で読めるもっとも詳細な伝記だと思われる。
・ユルゲン・ハーバーマス、ヨーゼフ・ラッツィンガー著、フロリアン・シュラー編『ポスト世俗化時代の哲学と宗教』三島憲一訳、岩波書店、2007年。
現代を代表する哲学者と神学者の対談の記録である。私も2020年初頭に読んだので記憶が曖昧だが、充実した解説でラッツィンガーの思想を知ることができた。具体的にいうと単なる「頑固な保守派」というイメージは自分の中で一新され、第二バチカン公会議を前向きに進めた神学者という姿に変わった。「第二バチカン公会議反対という話にならないレベルの保守派ではなく、ラッツィンガーは公会議保守である」というようなことが書かれていたと記憶する。この本はまず流通していないので図書館を探した方がいい。
・ファーガス・カー『二十世紀のカトリック神学:新スコラ主義から婚姻神秘主義へ』前川登、福田誠二監訳、教文館、2011年。
ここで紹介されるのはマリー・ドミニク・シェニュ、イヴ・コンガール、エドワード・スキレベークス、アンリ・ド・リュバック、カール・ラーナー、バーナード・ロナガン、ハンス・ウルス・フォン・バルタザール、ハンス・キュンク、カロル・ヴォイティワ(教皇ヨハネ・パウロ2世)、ヨゼフ・ラッツィンガー(教皇ベネディクトゥス16世)の10人である。第二バチカン公会議は近代世界への適合(aggiornamento)ではあるが、聖書学、教父学などの教会史の研究のもとに進められたものであることがわかる。
Gratias habeo et ago tibi, Papa Benedicte.
Per scientiam tuam mysteria Dei Omnipotentis agnoscere possumus.
Requiem aeternam dona ei, Domine, et lux perpetua luceat ei.
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